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アウルム地方 Ⅲ

작가: エチカ
last update 게시일: 2026-04-08 07:45:23

 口に入れた瞬間から、何が入っているのかを考えて、危ないと判断したら吐き出す。

 でもそれが遅れれば、体に支障が出る。

 どんな薬草で、どういう症状が出るのか。

 どの程度なら問題なく食べられる物なのか、常に考えていなければならない。

 勿論死ぬほどの量は含まれていないが、祖母はスパルタだったから、吐こうが下そうが、白目をむいて倒れようが容赦なかった。

 そうして具合を悪くする度、祖母が作ってくれるのはミルクベリーのスープだった事を思い出す。

 母乳に近いと言われる栄養価の高いベリー種の一つで、滋養強壮効果が高いその果実を、山羊の乳と一緒に煮込んでペースト状にしたものだ。

「あ……ミルクベリーでしょうか」

「え、食材? ミルクベリーってあの白い果物だろ?」

 驚いたノエルがキョトンとしてこちらを見ている。

「あ、はい。祖母がいつもスープにしてくれていました」

「へぇ……俺達には馴染みのない料理だな。果物をスープにするのか」

「ノエルは味音痴だから、食べれりゃ何でも良いんだろ?」

「ヴィーと違って好き嫌いがないだけだ」

「あー、ヴィー様の偏食は酷いからぁ……。野営訓練の時とか、大変だったわ」

「ミレー、煩いぞ。しかし、ミルクベリーか。俺も食べた事がないな。どんな味がする?」

「味は動物の乳に似ていると思います。山羊の乳より濃いかも……」

「私も食べてみたいわ! 甘くて美味しそうじゃない? ね、ノエル」

「え……。それは俺にミルクベリーを調達して来いって言ってんの?」

「ははっ、それは良いな。王都に戻ったら、料理長に作らせてみよう。レシピは分かるんだろう? オーリィ」

「はぁ……多分、自分で作る方が早いかと……」

 感覚で覚えている物を人に教えるより、自分で味をみた方が確実だ。

 しかし、オルタナはそう言った後でハッと気づいた。

 人を殺したかもしれない香辛料を作ったヤツが、こんな上位貴族に料理を振舞うなんて、非常識にも程がある。

「あ、すみません。出過ぎた事を申し……」

「いいや、オーリィー。お前は利用されただけだ。俺達は微塵もお前を疑ってはいない」

「そうよ。そうじゃないと一緒に食事なんてするわけないじゃない」

「ミレー……中尉……」

「まぁ、···胡椒で人が死んでたら国は亡びるな」

「ノエル少佐……」

「だが、ヴィー。この後はどうする? ルアド・モリガンは暫く足止め出来るだろうが、俺達の本当の目的がバレないとは言い切れん。そうなれば教会は黙っちゃいないだろう」

「そうよ、あの老害司祭が相手じゃ、厄介どころの話じゃないわ」

「悪戯好きな団長様の思い付きで、派手に罪人扱いしたオルタナの名誉回復もせねばならん」

 そう言って二人はじっとりと公爵を見る。

「何だ二人して。責めるじゃないか」

「そりゃそうですよ。こんな若くて可愛いオルタナを犯罪者にしちゃったのはヴィー様でしょう。もういっそ番にして貰ったら?」

「あぁ、それは良いな。どうだ? オルタナ、サリバン公爵の番になるか?」

「……は?」

「ヴィー様には婚約者もいないし、サリバン公爵家の番なら、教会も易々と手出しは出来ない」

「え、いや……あの⁉」

 話が全く見えないオルタナは、たじろいで助けを求める様に公爵の方へと視線を遣った。

 本当の目的って何だ? ってか、番にして貰えって?

 って言うか、発情しないって言ってんだろうがっ⁉

「番、か……それは良いかもしれん。オーリィ、俺の番になってみるか?」

「はぁ? な、なるわけないじゃないですか!」

「おや、フラれてしまったぞ。ノエル、どうしてくれる」

「たまにはソデにされるのも良いんじゃないですか? いっつも熱の高すぎるご令嬢にうんざりされてたじゃないですか」

「そう言う血だからな」

「否定せんのかい……」

「えっ……オルタナ、サリバン公爵家の番よ? 一生安泰よ? 私達ともいつでも会えるし、お得じゃない?」

「お得って……いや、ミレー中尉……そもそも僕は……」

 平民だし、罪人魔女ドーラの孫だし、発情しないし。

 王家に次ぐ筆頭貴族の番だなんて、天と地がひっくり返ってもなってはいけないものだ。

「発情しないからか?」

「公爵様……分かっておいでなら、こんな冗談はこれっきりにして下さい」

「何だ、そんな事か」

「はぁ?(本日二回目)」

「だって、発情した事にすれば問題ないだろ?」

「いや、いやいやいやいや……」

「嫌だって。フラれたなぁ、ヴィー」

「嬉しそうに言うんじゃない、ノエル」

「そんなにヴィー様の事嫌い? オルタナ。まぁ、確かに軽薄だし何考えてるか分かんないもんね。でも、根っから悪い人ではないのよ?」

「いや、ミレー中尉。ちょ……そう言う話ではない様な……?」

「あぁ、辛いな。一晩で二回もフラれたのは生れて初めてだ」

「ざまぁ……」

「ノエル、傷心の友に一晩付き合って貰おうか」

「いや、俺、明日朝早い……」

「知ってる」

「嫌がらせが姑息だぞ。オルタナ、俺の安眠の為に番になってくれないか? もう一度考えてくれ」

「いや、無理です!」

「残念、ヴィー。無理だって」

「傷口に塩塗りたかっただけだろう、お前」

 公爵とノエルの間でテンポの良い会話が延々と続く中、オルタナはどこまでが本当で、どこまでが冗談なのか分からなくなっていた。

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    「あの……王妃様は」「ラチアで良いわ」「いやぁ……それは」「じゃあ、ラティが良い?」 もっと呼びにくい。  子供って残酷だ。「あの、ではラチア様で……」「良いわ。私はオルティとでも呼ばせてもらおうかしら。オーリィと呼んだらヴィンスが嫉妬しそうだもの」 それはない、多分。  でも、無いとは言い切れない。 あの公爵は本気か否かは定かじゃないが、自分の玩具に執着が過ぎるから。

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